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広島家庭裁判所 昭和61年(少)2009号 決定

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、かねてより父母の監護に服さなかったものであるが、昭和61年7月30日ころから家出をし、同年8月23日ころから同級生A子と行動を共にし、同年10月11日に保護されるまで家出をしていた。その間、八丁堀などで知り合った男の自動車に乗って徒遊生活を送り、デートクラブの電話番号によって男性と知り合い、性交をして、その対価として報酬を得、生活費としていた。また、○○で知り合った「B」と称する男の世話により、広島市中区○○町×番×号レンタルルーム○○××B号室に居住していたが、暴力団員も出入りするところとなった。以上の事実及びシンナー吸入、暴行などの非行をかってやっていたこと、少年の性格などを考えると、福祉犯の被害者になったり、生活のため窃盗などの罪を犯す虞がある。

(上記事実に適用すべき法令)

少年法3条1項3号、イ、ロ、ハ

(処遇の理由)

1  少年については、まずもって、家庭との関係、特に父親との関係の悪さの著しいことが指摘できる。その原因についての父母の認識と少年のそれには大きなひらきがあり、普段の意思疎通を著しく欠いていたことを窺わせると共に、双方にやや独善的ないし他罰的性向があることを認めることができる。今回、観護措置を受けたことにより、誤解を正し、関係を修復させようという兆しは認められるけれども、上記の事情及び両者のしこりが相当程度長期間で形成され、もはや重大なものであること及び、家出中に交際していた男性との交際をなお続けようとの意思もみえることなどの事情、さらに、少年の衝動的でカツとしやすい性格を考えあわせるならば、自律的に親子関係を修復することには、なお大きな困難が伴なうものと判断できる。

2  また、家出は長期間に及び、その間、或いは、テレホンクラブを利用して売春を行ない、或いは、夜間徘徊する見知らぬ男と交遊し、また或いは、暴力団員とも結果的に交流するものとなったことなど、価値観、倫理感が急速に崩れつつあるものと認められる。またその行動には自分の存在価値を実感できない背景が認められる。このような、少年の問題性、人格の歪み自体、重大なものであって、看過し難いものである。

3  以上に指摘した少年と家庭との問題、少年自身の問題及び学校との適応も芳しいものではなかったことなどの事情を勘案すれば、在宅処遇には多くの困難と不安が伴なうものといわなければならない。少年は、現在、梅毒に罹患しており、その治療に長期間を要するものである。してみれば、少年に対して、困難と不安を伴なう在宅処遇の選択することは、少年に対して極めて重大な危険に直面させることに外ならず、年齢もいかず、衝動的で感情統制が不良であり、自己の大切さを実感していない少年に、かかる危険に直面することを強いるのは、到底適切な処遇とは言い難い。

4  結局、少年に対しては、初回係属の虞犯事件ではあるけれども施設収容の処遇を選択することが適当である。その間、少年の価値観、倫理感を矯正すると共に家庭と少年双方の問題点を十分に認識させて出院後の家庭の受け入れに遺漏のないように環境調整することが必要である。なお、前記のように少年については梅毒治療の必要性があることから医療少年院に送致することとし、医療措置終了後に初等少年院に移送することが相当である。

また、少年が現在中学校3年生であること、父母の引き取り意思が強いことなどから、前記の環境調整の成果を考慮しながら、仮退院の時期につき比較的早期にすることが適当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

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